「うちの子、発達障害があって全然勉強しないんです」
「テスト前なのに机に向かえない。どう声をかけたらいいか分からない」
そんな相談を、私たちは保護者の方から何度も受けてきました。先に結論をお伝えします。発達特性のある高校生が勉強に向かえないとき、その多くは「やる気がない」のではなく、「始めること」そのものに大きな負荷がかかっている状態です。
好きなことには何時間でも集中できるのに、勉強だけはどうしても始められない。これは矛盾ではありません。「やりたいかどうか」と「始められるかどうか」が、別々に動いているのです。だから対応の軸は、気持ちを動かすことではなく、始められる条件を整えることになります。
ただし、勉強できない背景が発達特性だけとは限りません。うつ状態や起立性調節障害、睡眠の乱れが重なっていることもあります。この記事では、理由の見分け方から、家でできる工夫、学校に頼める配慮、それでも合わないときの選択肢までを順に整理します。
結論:発達障害の高校生が勉強しないときの早見
- 発達障害の高校生が勉強しないのは、多くの場合「怠け」ではなく、注意・実行機能・読み書きなどの特性で「始められない」状態です。
- 「勉強できない病気では?」と感じたら、うつ状態・起立性調節障害・睡眠の問題が重なっていないかも確認します。判断は必ず医療機関で行ってください。
- 家庭では「量を減らす」より「始める段差を下げる」工夫が効きやすく、1つの方法を2週間は続けて試します。
- 学校には合理的配慮(提出方法・試験の配慮など)を相談できます。2024年4月からは私立学校を含めて提供が義務になりました。
- 工夫と配慮を尽くしても合わないときは、通信制高校など「学び方そのもの」を変える選択肢があります。
「勉強しない」と「勉強できない」は違う
最初に、いちばん大事なところです。「なんでやらないの」と聞いても答えが返ってこないのは、本人にも理由が見えていないからです。責める言葉は、本人が自分を責める材料を増やすだけで終わりやすく、勉強からさらに遠ざかるきっかけになります。
発達特性のある子の場合、止まっているのは「やる気」ではなく、次のような部分であることが多いです。
- 何から手をつけるか決められない(計画・優先順位)
- 始めても、気づくと別のことをしている(注意の維持)
- 読む・書く作業そのものに、人一倍エネルギーを使う(読み書き)
- 「どうせできない」という経験が積み重なっている(自己評価)
逆に言えば、条件が整えば、気持ちが乗っていなくても動けることがあります。ここからは、その「条件」を一つずつ見ていきます。
なお、文部科学省の調査(令和4年)では、高校の通常の学級で「学習面または行動面で著しい困難を示す」とされた生徒は2.2%でした。ただしこれは担任などの回答に基づく数字で、医師の診断による発達障害の割合ではない点に注意が必要です(出典:文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」)。

発達障害の高校生が勉強できない5つの理由
① 注意・集中を保ちにくい(ADHDの特性)
机に向かっても、物音や通知、頭に浮かんだ考えに注意が移りやすく、同じ作業を続けることが難しい状態です。「教科書を開いても内容が入ってこない」「気づいたら30分スマホを見ていた」という形で現れます。意志の弱さではなく、注意の向け方の特性です。
② 見通しが立たないと動けない・こだわりがある(ASDの特性)
「どこまでやれば終わりか」が見えないと始められない、自分のやり方と違う方法を強いられると止まってしまう、という形で現れることがあります。ASDの特性がある子が「勉強しない」ように見えるとき、実は手順や終わりが曖昧なことに強い負荷を感じている場合があります。
③ 読み書き・計算に特定の困難がある(LD・SLD)
知的な遅れはないのに、文字を読む・書く・計算するといった特定の作業に著しい困難がある状態です。読むだけで疲れ切ってしまうため、勉強そのものが苦痛になりがちです。
④ 実行機能の弱さ
計画を立てる、作業を始める、途中で切り替える、といった「実行機能」に弱さがあると、「やらなきゃいけないのは分かっているのに、どうしても始められない」状態になります。保護者から見ると、ここがいちばん「やる気の問題」に見えやすい部分です。
⑤ 失敗体験の積み重ね(学習性無力感)
小中学校のころから「頑張っても成果が出ない」経験を重ねてくると、「どうせやっても無駄」と感じて勉強そのものを避けるようになることがあります。本人が「自分は頭が悪い」と言い始めたら、このサインかもしれません。
「勉強できない病気?」と思ったら|発達特性以外に確認したいこと
「勉強しようと思ってもできない」「長時間集中できない」状態が、急に始まった、あるいは以前より明らかに悪くなった場合は、発達特性以外の要因が重なっていることもあります。代表的なものを整理します。ここに挙げるのは「可能性」であり、判断は必ず医療機関で行ってください。
| 気になる様子 | 考えられる要因の例 | まず相談したい先 |
|---|---|---|
| 好きなことも楽しめない、自分を責める、集中できない状態が2週間以上続く | うつ状態 | かかりつけ医、児童精神科・心療内科 |
| 朝起きられず午前中は不調だが、午後〜夕方は元気になる。立ちくらみや頭痛がある | 起立性調節障害 | 小児科(思春期外来など) |
| 夜眠れない・朝起きられない状態が続き、日中ぼんやりする | 睡眠リズムの乱れ | かかりつけ医、小児科 |
| テストや提出の前になると腹痛・頭痛・強い不安が出る | 不安・ストレス反応 | スクールカウンセラー、医療機関 |
厚生労働省の情報では、うつ病では気分の落ち込みや興味の低下とともに、集中力や決断力の低下が起こることがあるとされています(出典:厚生労働省「こころの耳」ほか)。また日本小児心身医学会は、起立性調節障害を朝起き不良や倦怠感、立ちくらみなどを伴う思春期に多い自律神経の不調として説明しています(出典:一般社団法人日本小児心身医学会)。どちらも「怠け」と誤解されやすい点が共通しています。
発達特性がある子は、こうした不調が重なりやすいとも言われています。「特性のせい」と決めつけず、様子が変わったときは早めに相談してください。
「勉強しない」の正体を4つに切り分ける
| 止まり方 | よくある様子 | 逆効果になりやすい対応 | 効きやすい対応 |
|---|---|---|---|
| 始められない | 「何をすればいいか分からない」 | 「やる気を出せ」 | 最初の1手だけを決める(教科書を開く、まで) |
| 覚えておけない | 課題の存在を忘れる。今やっていたことを見失う | 口頭でまとめて指示する | 紙・アプリに書き出して見えるところに置く |
| 読み書きに負荷がかかる | 読むのに時間がかかる。書くと極端に疲れる | 反復で慣れさせる | 読み上げ・タイピング・板書の撮影に替える |
| 環境がつらい | 教室だとできないが家だとできる(逆もある) | 気合いで慣れさせる | 音・光・人数を調整する |
どれに当てはまるかは、「本人がサボっているように見える場面」を3つ書き出してみると見えてきます。同じ場面で繰り返し止まっているなら、それは意志の問題ではなく、そこに負荷がかかっているというサインです。

テスト前に勉強できない・提出物が出せないときの対策
日々の勉強と、テスト・提出物は、止まる理由が違います。同じ方法で乗り切ろうとすると、どちらも崩れやすくなります。
提出物は「終わっていない」より「出せない」が多い
終わっているのに出せない、という相談は実はとても多いです。理由はだいたい次のどれかです。
- 提出のタイミング(いつ・誰に・どこへ)が分からない
- 完璧でないものを出すことに強い抵抗がある
- カバンから出す、という最後の1手が抜ける
- 期限を過ぎた時点で「もう出せない」と思い込んでいる
対策は、「出す」を勉強から切り離して1つの作業として扱うことです。前夜にカバンの一番上へ入れる、朝に写真を撮って保護者と確認する、担任に「遅れても受け取ってもらえるか」を先に聞いておく。この3つで、かなりの部分が動きます。
テスト前は「全部やらない」と決める
特性によっては、広い範囲を均等に進める形が最も不向きです。1教科あたり「必ず取る単元を2つ」だけ決めて、そこだけ反復する。点数の見通しが立つと、机に向かう段差そのものが下がります。テスト前に体調を崩しやすい場合は、それも織り込んで「早く始めて早く止める」計画にしてください。
家でできる工夫は「量を減らす」より「段差を下げる」
よくある対応が「まず1日10分から」と量を減らすことです。これが効くこともありますが、止まっている理由が量ではない場合、10分でも動けません。効きやすいのは、始めるまでの段差を下げることです。
| 困っていること | 段差を下げる工夫 |
|---|---|
| 何から始めるか決まらない | やることを紙に3つだけ書き、上から1つずつ消す |
| いつ終わるか分からず動けない | タイマーで終わりを先に決める(15分で必ず止める) |
| 机に向かうこと自体がつらい | 場所を変える(リビング・図書館)。姿勢を固定しない |
| 課題の量に圧倒される | プリントを1枚ずつ切り離して渡す |
| 書くのが負担 | タイピング・音声入力・写真での提出を学校に相談する |
| 集中が切れる | 切れることを前提に、休憩を先に予定へ入れる |
どれか1つを試して、2週間は変えないでください。いくつも同時に変えると、何が効いたのか分からなくなります。そして「できた日」を記録してください。できなかった日は本人がいちばん覚えています。見えるようにする価値があるのは、できた日のほうです。
親の声かけで避けたいこと
- 「なんで勉強しないの!」と問い詰める
- きょうだいや同級生と比べる
- 「頑張れば絶対できる」と根拠なく励ます
- スマホやゲームを罰として一方的に取り上げる
代わりに、「今日はどれからにする?」と最初の1手を一緒に決める形に切り替えてみてください。「やったか」の確認より、「始める」を手伝うほうが動きやすくなります。
勉強の話になると癇癪が起きるとき
勉強の話題で強く怒ったり物に当たったりするのは、多くの場合「できない自分」を突きつけられたときの限界のサインです。その場で説得しようとせず、いったん話題を離れて落ち着く時間を取ってください。落ち着いてから「どこがいちばんしんどかった?」と聞くほうが、本音が出やすくなります。危険な行動がある、家族が疲れ切っているといった場合は、一人で抱えずに相談先(後述)を頼ってください。
不登校と重なっているときは「勉強」より先に回復を
発達特性があり、学校を休みがちになっている場合、勉強が止まっているのは自然なことです。エネルギーが残っていない状態で勉強を求めても、かえって回復を遅らせることがあります。
この時期は、まず生活リズムと「安心して過ごせる時間」を取り戻すことを優先してください。勉強は、本人が少し余裕を見せ始めてから、興味のある分野や得意な形(動画・音声など)で再開すれば十分です。単位や出席日数が心配な場合は、担任に「どのくらい休むと何が起きるか」を早めに確認しておくと、見通しが立って保護者の不安も軽くなります。
学校には「合理的配慮」を相談できます
家庭の工夫だけで抱え込まないでください。障害者差別解消法の改正により、2024年4月からは私立学校を含む事業者にも、合理的配慮の提供が義務づけられました(出典:内閣府「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます」)。診断名がなくても、困りごとを具体的に伝えることで相談を始められる場合があります。
| 場面 | 相談できる配慮の例 |
|---|---|
| 授業 | 板書の撮影、プリントの事前配布、指示を書面でも渡してもらう |
| 試験 | 時間延長、別室受験、問題文の拡大や読み上げ |
| 提出物 | 期限の調整、分割提出、手書き以外での提出 |
| 教室環境 | 座席の配慮、イヤーマフの使用、別室での学習 |
相談の順番は、担任 → 特別支援教育コーディネーター → 管理職が基本です。「ADHDです」と伝えるより、「口頭の指示だけだと抜けるので、書面でもいただけますか」と具体的な場面で伝えるほうが、配慮につながりやすいのが実際のところです。
※合理的配慮は「求めれば必ず通る」ものではなく、学校の体制の範囲で話し合って決まります。難しいと言われた場合も、代わりにできる方法を一緒に探す形で相談を続けてください。
正直にお伝えします。この記事に書いた工夫を試しても、すぐには変わらないことがあります。発達特性への対応は「正しい方法を見つければ解決する」ものではなく、本人の状態・環境・時期によって効くものが変わり続けます。親が工夫を重ねても改善しない時期があるのは、親の失敗ではありません。そして私たちNIJIN高等学院は、医療機関でも療育機関でもありません。診断や治療については、主治医にご相談ください。
勉強しないままで将来は大丈夫?
「このまま勉強しなかったら、将来どうなるんだろう」。保護者の方がいちばん不安になるのはここだと思います。
まず知っておいてほしいのは、高校卒業資格があれば、全日制でも通信制でも大学受験の資格は同じだということです。高校3年間の成績だけで将来が決まるわけではありません。
いま大切なのは、勉強量を増やすことより、「この環境で卒業までたどり着けるか」を確認することです。単位の取り方や登校の形が合っていないなら、学び方を変える選択肢もあります。文部科学省の学校基本調査では、通信制高校の生徒数は令和8年度の速報値で約31万人と、増加が続いています(出典:文部科学省「学校基本調査」)。自分のペースで学べる環境を選ぶことは、もう特別なことではありません。
それでも合わないときは、学び方そのものを変える
工夫と配慮を尽くしても、環境そのものが合っていないことがあります。その場合、本人の努力量を増やしても状況は変わりません。次のどれかが続いているなら、環境を変えることを選択肢に入れてよい段階です。
- 家ではできるのに、学校ではまったくできない状態が学期をまたいで続いている
- 配慮を相談したが、体制として難しいと回答された
- 欠課が増え、単位の認定が難しくなってきた
- 本人が「自分は頭が悪い」と言い始めている
4つ目は特に見逃さないでください。これは能力の問題ではなく、合わない環境で失敗を重ねてきたサインです。転校や転入を考える場合は、単位の引き継ぎと時期を必ず確認してください。

NIJIN高等学院(ニジ高)の場合と、正直な注意点
ニジ高はオンライン中心の通信制高校サポート校です。1クラス8人の少人数制で担任がつき、カメラもマイクもオフのまま、チャットだけの参加から始めても構いません。音や人数がつらい生徒にとって、ここは大きな違いになります。スタッフの9割以上が教員免許を持ち、特別支援学校での勤務経験があるスタッフもいます。
一方で、高卒資格を得るには、提携する通信制高校のスクーリング(年に数日・宿泊型)への参加が必要です。私たちはその準備と当日を支える立場です。学費は学費のご案内で公開しています。
相談先の目安
| 相談先 | こんなときに |
|---|---|
| 担任・特別支援教育コーディネーター | 授業や試験、提出物の配慮を相談したい |
| スクールカウンセラー | 本人の気持ちや親子関係について話したい |
| かかりつけ医・小児科 | 朝起きられない、体調不良が続く |
| 児童精神科・心療内科 | 気分の落ち込みが続く、発達特性の評価を受けたい |
| 発達障害者支援センター(各都道府県・指定都市) | 診断の有無にかかわらず、特性について相談したい |
よくある質問
A. 相談できます。学校によっては診断がなくても配慮を検討してもらえる場合があります。まず「どの場面で、どう困っているか」を具体的に伝えてください。
A. 無理に伝える必要はありません。「あなたに合うやり方を探している」という伝え方で工夫を試すほうが、受け入れられやすくなります。
A. よくあることです。指示を減らし、環境のほうを変えてみてください。声かけは「やったか」の確認ではなく、始める1手を一緒に決める形に切り替えます。
A. 負荷の高い一日のあとで、回復のために使っていることもあります。取り上げるより、終わりの時間を一緒に決めるほうが現実的です。
A. こだわりそのものより、「終わりが見えない」「手順が曖昧」なことに強い負荷を感じている場合があります。やる範囲と終わりの時刻を先に決めると、動きやすくなることがあります。
A. うつ状態や起立性調節障害、睡眠の乱れなどが関係していることもあります。2週間以上続く、体調の変化を伴うといった場合は、かかりつけ医や小児科に相談してください。
A. 高校卒業資格が取れれば、大学受験の資格は同じです。まず「今の環境で卒業までたどり着けるか」から確認してください。
まとめ
発達障害の高校生が勉強しない背景には、注意・見通し・読み書き・実行機能といった特性や、失敗体験の積み重ねがあります。「怠けている」と見るのをやめ、どこで止まっているのかを切り分けることが出発点です。
急に勉強できなくなった、体調の変化があるといった場合は、うつ状態や起立性調節障害などが重なっていないかも確認してください。そのうえで、家庭では始める段差を下げ、学校には合理的配慮を相談する。それでも合わないときは、学び方そのものを変える選択肢があります。
どの段階でも、親子だけで抱え込まないでください。






