「毎日ちゃんと机には向かっているのに、全然身についていない」「授業を聞いているはずなのに、内容が頭に入ってこない」「テスト前になると、何から手をつければいいか分からなくなる」——ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の特性を持つ高校生とその保護者から、こうした声をよく聞きます。
多くの場合、本人はサボっているわけでも、やる気がないわけでもありません。むしろ人一倍「ちゃんとやらなきゃ」と思っているのに、うまくいかない自分を責めてしまっているケースが少なくありません。
先に、いちばん伝えたいことを書きます。「勉強ができない」のではなく、「知っていることを、その場で実行するのが難しい」という状態が起きています。これは意志の弱さではなく、脳の実行機能(計画を立てる、記憶を保持する、注意を切り替えるといった働き)の特性によるものです。原因が分かれば、対策の立て方も変わります。
この記事では、ASD・ADHDそれぞれの特性が学習にどう影響するのか、公的資料と臨床心理学の知見をもとに整理し、今日から試せる対策と、学校に相談できる配慮についてまとめました。
結論:ASD・ADHDの高校生の学習困難への対応の早見
- 「勉強ができない」の多くは、知識やスキルの欠如ではなく、それを「その場で実行する力」(実行機能)の特性によるものです。ADHDの臨床研究では、これは意志の弱さではなく神経生物学的な特性だと整理されています。
- ADHDは主に「ワーキングメモリの弱さ」「時間の感覚のつかみにくさ(時間盲)」「即時の報酬に引かれやすい」ことが学習の障害になりやすく、ASDは主に「曖昧な課題への弱さ」「感覚過敏」「学んだことを別の場面に応用しにくいこと」が影響しやすいとされています。
- 文部科学省の令和4年度調査では、高校の通常の学級に在籍する生徒の2.2%が、担任等の判断で「特別な教育的支援を必要とする」とされていますが、これは医師の診断ではなく、あくまで学校現場の観察に基づく数字です。
- 対策の基本は、タスクを小さく分ける、時間を区切る、視覚的に見通しを示す、曖昧さを減らすなど、「本人の努力量を増やす」のではなく「環境側の負荷を減らす」方向で考えることです。
- 家庭や本人の工夫だけで抱え込む必要はありません。学校には合理的配慮の提供が法律上義務づけられており、発達障害者支援センターなど専門機関にも相談できます。
なぜASD・ADHDの高校生は「勉強ができない」と感じるのか
ADHD研究で知られるラッセル・バークレー博士の整理では、ADHDの中核は「知識やスキルの欠如」ではなく、「実行機能の障害」にあるとされています。つまり、やり方を知らないのではなく、必要な場面でそれを一貫して実行することが難しい、という「遂行(パフォーマンス)の問題」です。これは怠けや意志薄弱ではなく、神経生物学的な基盤に基づく特性だと明言されています。
この「わかっているのに、その場でできない」という視点は、家庭で「何度言ったら分かるの」と感じる場面の多くを説明してくれます。知識が足りないのではなく、実行する仕組みの部分でつまずいているのです。
ADHDが学習に影響しやすいポイント
| 特性 | 学習への影響 |
|---|---|
| ワーキングメモリの弱さ | 指示を最後まで覚えられない、文章題の途中で手順を忘れる |
| 持続的な注意の困難 | 長時間の読解や単調な暗記・ドリルが特に苦手 |
| 時間の感覚のつかみにくさ | 「テストまであと1週間」の感覚がつかめず、計画的に始められない |
| 過集中と散漫の両極 | 興味のある内容には没頭できる一方、興味のない科目には極端に集中できない |
| 即時の報酬への引かれやすさ | 定期テストの成績より、目の前のスマホやゲームを優先してしまう |
ASDが学習に影響しやすいポイント
- 曖昧な課題への弱さ:「自由に書いて」のようにゴールや手順が明示されない課題は見通しが立ちにくく、着手そのものが難しくなりやすい。
- 学んだことを応用しにくい:一つの問題形式で覚えたことを、少し形の違う応用問題に結びつけることに時間がかかる。
- 感覚過敏による疲労:教室の物音、蛍光灯の光、周囲の動きが過剰な刺激となり、それ自体が集中力を消耗させる。
- 得意分野への極端な集中:好きな分野には驚異的な集中力を発揮する一方、それ以外の科目への意欲が湧きにくい。
- 助けを求めることの難しさ:「どこが分からないのか」を言葉にして質問すること自体のハードルが高く、つまずきが表に出ないまま蓄積しやすい。
ASD・ADHDは併存することも多く、実際には両方の傾向が入り混じって現れます。「発達障害だから集中できない」とひとくくりにせず、どちらの傾向が強いかを日々の様子から把握しておくと、対策を選びやすくなります。目安として、次のように整理されることが多くあります。断定的な線引きではなく、あくまで傾向としての目安です。
| 場面 | ADHDに近い | ASDに近い |
|---|---|---|
| 集中が切れる原因 | 刺激の少なさ、単調さ、飽き | 予定外の変化、感覚的な刺激 |
| つまずきやすい課題 | 長時間の反復学習、計画的な準備 | 曖昧な指示、応用問題、自由記述 |
| 好きな分野への反応 | 一時的に強く集中するが長続きしにくい | 継続的に深く没頭し、詳しくなる |
| 助けの求め方 | 気づけば忘れている、思い出せない | 何を聞けばいいか分からず黙り込む |
起きやすい悪循環
対策を考える前に、知っておいてほしい流れがあります。「うまくできない」→「注意される、自分でも落ち込む」→「勉強そのものへの苦手意識が強くなる」→「余計に手がつかなくなる」という悪循環です。この流れに入っていると、対策を一つ試しただけではすぐに効果が見えにくいことがあります。まずは「できなかったこと」を責めるより、「昨日より1つでも小さく進んだこと」に目を向けることが、悪循環を止める第一歩になります。
数字で見ると——高校生の2.2%が「特別な支援が必要」と判断されている
文部科学省が実施した令和4年度「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」では、高等学校の通常の学級に在籍する生徒のうち2.2%が、担任等の判断で「特別な教育的支援を必要とする」とされました。内訳は、学習面のみの困難が1.3%、行動面のみの困難が1.4%、両面での困難が0.5%です。行動面のうち「不注意」または「多動性・衝動性」の問題は1.0%、「対人関係やこだわり等」の問題は0.5%となっています。
出典:文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」(令和4年)
ここで大事な注意点があります。この調査は医師の診断の有無を尋ねたものではなく、あくまで学校現場の担任等が「支援が必要そうだ」と感じた生徒の割合です。「不注意・多動性」や「対人関係・こだわり」はADHD・ASDに近い特性カテゴリーではありますが、診断名に基づく分類ではありません。数字を「診断のある生徒の割合」として読み違えないよう注意してください。
対策:環境側の負荷を減らすという考え方
対策を考えるときの基本方針は一つです。「本人の頑張りを増やす」のではなく、「実行機能や感覚処理にかかる負荷を、環境の側で減らす」ことです。
| 方法 | 主にADHDに有効 | 主にASDに有効 |
|---|---|---|
| タスクを小さく分ける | ワーキングメモリの負荷を減らす | 見通しを立てやすくする |
| タイマーで時間を区切る | 持続的注意の限界に合わせて休憩を挟む | 終わりの時刻が明確になり安心できる |
| 視覚的なスケジュール・チェックリスト | 外部の記憶補助として機能する | 予測可能性が上がり不安が減る |
| 進捗や達成を目に見える形にする | 即時の報酬への引かれやすさを補う | 達成感を積み重ねやすくする |
| 座席・照明・音などの環境調整 | 気が散る刺激を減らす | 感覚過敏による疲労を減らす |
| 指示やルールを具体的に明示する | やることが明確になり着手しやすい | 曖昧さへの弱さを補う |
得意分野を入り口にする
ASD・ADHDの高校生は、興味のある分野には驚異的な集中力を発揮することがあります。歴史が好きなら年号を覚える感覚で英単語を関連づける、ゲームが好きならスコアやレベルアップの仕組みを学習の進捗管理に応用する、といった形で、得意なことのやり方を苦手な科目に橋渡しすると、着手のハードルが下がることがあります。すべての科目でこれができるわけではありませんが、「まず得意な教科から始めて勢いをつける」だけでも、1日の学習全体への抵抗感が変わることがあります。
家庭でできる工夫
勉強を始める前に、「今日はこの順番で、ここまでやる」と紙やホワイトボードに書き出しておくだけでも、着手のハードルは下がります。タイマーを使って「25分やったら5分休む」のように区切ると、持続的な注意の限界に合わせやすくなります。得意な教科や興味のある単元から始めて、勢いをつけてから苦手な教科に移る、という順番の工夫も有効です。
うまくいかない日があっても、「今日はできなかった」で終わらせず、「どこでつまずいたか」を一緒に振り返る姿勢が、次への手がかりになります。
テスト前によくある失敗パターンと対策
| よくある失敗パターン | 起きやすい理由 | 対策の方向性 |
|---|---|---|
| 範囲が広すぎて何から手をつけるか決められない | 曖昧な課題への弱さ、見通しの立てにくさ | 科目・単元ごとに小さなタスクに分け、順番を紙に書き出す |
| 前日になって一夜漬けになる | 時間の感覚のつかみにくさ(時間盲) | カレンダーに「テスト◯日前」の目印を作り、逆算して予定を組む |
| 覚えたはずなのに応用問題で解けない | 学んだことを別の場面に応用しにくい特性 | 同じ単元でも問題の形を変えた練習を複数こなす |
| 途中で他のことが気になり進まなくなる | 持続的な注意の困難、周囲の刺激 | スマホを別室に置く、静かな環境を用意し、タイマーで区切る |
ICT・支援ツールの活用
読むこと自体に負荷がかかる場合は、テキスト読み上げ機能や音声入力を使うことで、内容の理解に集中しやすくなります。スケジュール管理アプリやリマインダーは、外部のワーキングメモリとして機能し、「言われたのに忘れていた」を減らす助けになります。こうしたICTの活用は、学校での合理的配慮としても位置づけられる場合があります。
保護者自身の心のケアも大切です
繰り返しうまくいかない様子を見続けることは、保護者にとっても大きな負担です。「自分の関わり方が悪いのでは」と自分を責める方は多いですが、対策がすぐに効果を出さない時期があるのは、保護者の失敗ではありません。一時的にでも距離を置ける時間を確保すること、同じ悩みを持つ保護者同士で話せる場を探すことも、家庭全体を支える対応のひとつです。
学校に相談できる合理的配慮
2024年4月の障害者差別解消法の改正により、私立学校を含む事業者による合理的配慮の提供が、努力義務から法的義務になりました。高校でも、試験時間の延長、別室受験、指示の書面での提示など、特性に応じた配慮を相談できます。
出典:内閣府「リーフレット:令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」
また、2018年度から高等学校でも「通級による指導」が制度化されており、通常の学級に在籍しながら、週に数時間、個別または少人数で特性に応じた指導を受けられる場合があります。ただし実施している学校はまだ限られているため、在籍校に制度があるかどうかは確認が必要です。
相談の窓口としては、担任のほか、学校ごとに指名されている特別支援教育コーディネーターや、スクールカウンセラーがあります。「家でこう困っている」という事実と、「学校ではどう見えていますか」という質問をセットで持っていくと、家庭と学校での見え方のズレを埋めやすくなります。
気をつけたい情報
インターネット上には、特定のサプリメントや食事療法でADHDの症状が改善するという情報も見られますが、厚生労働省の統合医療情報発信サイトでは、オメガ3脂肪酸をはじめとする複数の栄養補助食品について、「有効性は確立していない」と整理されています。断定的な「これを食べれば改善する」といった情報には注意してください。
出典:厚生労働省 統合医療情報発信サイト(e-JIM)「ADHD(海外の情報)」
薬物療法を含む治療方針は、必ず医師の診断のもとで検討すべき事柄です。この記事で紹介した対策は、あくまで日常の学習環境を整えるための工夫であり、治療や診断に代わるものではありません。また、ASDとADHDは併存することが多い一方でメカニズムは異なるため、「発達障害向けの勉強法」を一括りに試すより、どちらの特性がどの場面で強く出ているかを見極めたうえで、対策を選ぶほうが効果を実感しやすくなります。
運営は株式会社NIJINです。これまでに650名以上の不登校の子どもたちを支えてきた知見をもとに、発達特性のある高校生一人ひとりの学習・生活・進路を支えています。転入・編入の相談は、学校を辞める・辞めないを決める前の段階からでも構いません。
専門家に相談すべきタイミングと窓口
次のような状態が続く場合は、家庭や学校だけで抱え込まず、専門機関に相談する段階だと考えてください。
- 学習面の困難が、生活リズムや自己肯定感に大きく影響している
- 対策を試しても、状況が長期間変わらない、あるいは悪化している
- 本人が「自分はダメだ」と強く感じる言葉を口にするようになった
- 診断の有無を含めて、専門家の意見を聞いておきたい
| 窓口 | 特徴 |
|---|---|
| 発達障害者支援センター | 都道府県・政令指定都市に設置。診断の有無を問わず無料で相談できる |
| 児童精神科・医療機関 | 診断や、必要に応じた治療の相談窓口 |
| 学校のスクールカウンセラー・特別支援教育コーディネーター | 学校生活・学習面の困りごとを相談できる |
| 発達障害ナビポータル(hattatsu.go.jp) | 相談窓口の探し方や高校進学準備の情報を掲載する公式ポータル |
出典:発達障害情報・支援センター/発達障害ナビポータル(hattatsu.go.jp)
診断がまだない場合でも、多くの相談窓口は利用できます。「診断名を伝える」ことより、「どんな場面で、何に困っているか」を具体的に伝えるほうが、適切な相談先につながりやすくなります。

よくある質問
A. 構いません。発達障害者支援センターなどの公的な相談窓口は、診断の有無にかかわらず利用できます。学校への相談も同様で、具体的な困りごとを伝えることが、診断名を伝えることより重要です。
A. 両方が併存することは珍しくありません。どちらの傾向が強く出ているかを日々の様子から把握し、この記事で紹介した対策を組み合わせて試してみてください。判断に迷う場合は専門機関に相談することをおすすめします。
A. 一概には言えません。集団指導の塾は刺激が多く負荷になる場合もあれば、決まった時間に通うことでリズムが作りやすい場合もあります。本人がどちらでより負荷を感じにくいかを基準に選ぶとよいでしょう。
A. 特定のサプリメントについて、公的機関は有効性が確立していないと整理しています。学習環境の調整や学校への相談を優先し、治療的な効果をうたう情報には慎重に向き合ってください。
A. 環境要因が大きい場合は変化が見られることもありますが、万能な解決策ではありません。学習困難の背景には特性そのものの影響もあるため、環境を変えることと並行して、専門機関への相談を続けることをおすすめします。
A. 完璧にやらせようとせず、「着手のきっかけを作る」役割に徹するくらいが長続きします。タイマーをセットする、最初の一問だけ一緒に読む、といった小さな手伝いで十分です。
A. 発達特性による学習のつまずきは、努力量や能力そのものの差ではありません。きょうだい間で比べる言葉は、自己肯定感を大きく下げてしまうことがあるため、それぞれの成長のペースとして見る視点を持てると、本人にも保護者にも負担が軽くなります。
A. 無理に机に向かわせようとする前に、まず何が負担になっているかを一緒に探ってみてください。「やりたくない」の裏に、量の多さや見通しの立たなさへの不安が隠れていることがあります。それでも変わらない場合は、学校や専門機関に相談する段階かもしれません。
まとめ:「できない」ではなく「やり方が合っていない」として見る
ASD・ADHDのある高校生の学習困難は、多くの場合、努力不足でも、やる気のなさでもありません。知識やスキルはあっても、それをその場で実行する仕組みの部分に特性があり、標準的な授業スタイルと噛み合っていない、という状態です。
対策の基本は、本人にもっと頑張らせることではなく、タスクを小さくする、時間を区切る、見通しを示すといった形で、環境側の負荷を減らすことです。それでも状況が変わらない場合は、ひとりで抱えず、学校や専門機関に相談してください。
参考文献
- 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」(令和4年)
- 内閣府「リーフレット:令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」
- 文部科学省「高等学校における通級による指導について」
- 厚生労働省 統合医療情報発信サイト(e-JIM)「ADHD(海外の情報)」
- 発達障害情報・支援センター/発達障害ナビポータル(hattatsu.go.jp)
執筆者:ニジ高編集部 2026年9月18日
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