通信制高校に入ると、勉強の時間の大半は家の中になります。自由に使える時間が増えたはずなのに、机に向かっても手が止まる。気づけばスマホを触っていて、夕方になっている。「家だと集中できない」は、通信制の生徒と保護者からとてもよく聞く悩みです。
先に結論を書くと、これは意志の弱さの問題ではなく、ほとんどが「場所と時間と人」の設計の問題です。この記事では、文部科学省の「令和7年度 通信制高等学校実態調査」、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の親子調査(2026年6月公表)、スマートフォンと集中力に関する研究とその追試を、2026年9月21日に実際に確かめたうえで、今日から試せる手順に落としていきます。
全部を一度にやる必要はありません。1つだけ持ち帰ってもらえれば十分です。
結論:家で集中できないときの早見
- 家で勉強できないのはあなただけではありません。高校生の学校外の学習時間は、この11年で1日あたり22分(約2割)減っています(東大社研・ベネッセの親子調査2025)。
- 通信制は自宅でのレポート学習が前提の仕組みです。家で進まないと、スクーリングや試験より先にレポートで止まります。
- 「スマホが近くにあるだけで集中力が落ちる」という有名な研究は、事前登録した追試では再現しませんでした。メタ分析でも影響は小さめです。ただし、手に取れる場所にあると触ってしまうのは別の問題です。
- 効くのは精神論より仕組みです。勉強する場所を1か所に決める、始める時刻を決める、スマホの置き場所を決める。
- 家の外の机(図書館など)は有効ですが、自習できる席かどうかのルールが施設ごとに違います。先に確かめてください。
- いちばん続くのは「人の気配」がある時間です。家族が同じ部屋にいる、同じ時間にオンラインでつながる、といった形でも効果があります。

「家だと何もできない」と自分を責めているあなたへ
全日制の学校に通っていたころは、朝に家を出て、決まった時間に授業が始まり、周りにはいつも誰かがいました。集中していたのは自分の力というより、その仕組みのおかげだった部分が大きいのです。
通信制に移ると、その仕組みがごっそり抜けます。起きる時刻も、始める時刻も、休む時間も、全部自分で決めることになります。大人でも、在宅勤務に切り替えた直後は同じように仕事が手につかなくなる人が多いといわれます。それと同じことが、高校生の身に起きているだけです。
だから、「自分はだめだ」と結論を出す前に、抜けた仕組みを一つずつ家の中に作り直すことを考えてみてください。この記事は、その作り直しの順番をお渡しするためのものです。

家で勉強できないのは、あなただけではありません
東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で続けている「子どもの生活と学びに関する親子調査2025」(2026年6月30日公表)では、宿題・家庭学習・塾を合わせた学校外の学習時間が、この11年で高校生は1日あたり22分減ったと報告されています。約2割の減少です。
同じ発表では、宿題以外の勉強をまったくしない「家庭学習0分」の子どもが4〜5割いることも示されています(小学生から高校生までをまとめた値です)。家で自分から勉強する、というのは、全国的にもどんどん難しくなっていることがわかります。
数字を出したのは、慰めるためだけではありません。これだけ多くの人が同じところでつまずいているなら、それは個人の性格ではなく、環境の側に原因がある可能性が高い、ということです。原因が環境なら、環境を変えれば動きます。
通信制は、自宅でのレポート学習が前提の仕組みです
通信制高校で単位を取るには、大きく分けて3つが必要です。自宅などで取り組む添削課題(レポート)、学校に行って受ける面接指導(スクーリング)、そして試験です。このうち、時間をいちばん使うのがレポートで、これは基本的に家で進めることになります。
文部科学省の「令和7年度 通信制高等学校実態調査」には、レポートは出しているのに面接指導には1日も来ていない生徒の割合が載っています。公立で4.2%、私立で2.3%でした。そうした生徒がいる学校に理由を聞いた結果は次のとおりです。
| 理由(複数回答) | 挙げた学校の数 |
|---|---|
| 心身の状況 | 161校 |
| 生活習慣(ゲーム・スマホへの依存など) | 81校 |
| 家庭の状況 | 80校 |
ここからわかるのは、学校の側も、生活習慣やスマホとの付き合い方が学びの続け方に影響していると見ている、ということです。同時に、最も多いのは心身の状況です。調子が整っていない時期に「集中できない」のは、ある意味で自然なことでもあります。体調が理由のときは、環境づくりより先に休むことや相談することを優先してください。気持ちの不調が続いている場合は、うつ病で学校に行けない高校生の記事も参考にしてください。
レポートの進め方や通信制で「勉強についていけない」と感じたときの考え方は、通信制高校の高校生活の記事でも触れています。

「スマホがあるだけで集中できない」は、半分だけ本当です
家で集中できない原因として、真っ先に名前が挙がるのがスマートフォンです。2017年に発表された Ward らの研究では、スマホを机の上に置いた人、かばんやポケットに入れた人、別の部屋に置いた人で認知課題の成績を比べ、スマホが近くにあるほど成績が下がったと報告されました。「そこにあるだけで頭のリソースを奪う」という結論は、日本でも広く紹介されています。
ところが、その後の検証では話が変わりました。2022年に事前登録のうえで行われた直接の追試では、この効果は再現しませんでした。2020年にも、認知的なコストの証拠は見つからなかったとする研究が出ています。2023年には22の研究・43の効果をまとめたメタ分析が発表され、全体としての影響は統計的には有意だが小さく、有意だったのは記憶の課題だけで、注意の課題では有意ではなかったとされています。
つまり、「スマホがそこにあるだけで集中力が大きく落ちる」とまでは言えません。一方で、通知が鳴れば手に取りますし、手に取れば数分のつもりが数十分になることは、多くの人が経験で知っています。問題はスマホの存在そのものより、手を伸ばせば届くことのほうです。だから対策も「スマホを憎む」ことではなく、「勉強の時間だけ、置き場所を決める」ことになります。
- 勉強を始める前に、スマホを別の部屋か、立ち上がらないと届かない棚に置く。
- 通知をまとめて切る設定を使い、勉強の時間帯だけ有効にする。
- 調べものに使う場合は、パソコンやタブレットなど、SNSを入れていない端末に分ける。

場所を分けると、切り替えが楽になります
寝る場所、くつろぐ場所、勉強する場所が同じだと、頭が切り替わりにくくなります。ベッドの上で教科書を開くと眠くなり、勉強机でゲームをすると机に向かうだけで遊びたくなる。これは多くの人が経験していることです。家の中で選べる場所を比べてみます。
| 場所 | よいところ | 気をつけること |
|---|---|---|
| 自分の部屋の机 | 静か。教材を出しっぱなしにできる | ベッドやゲーム機が近いと誘惑も近い |
| リビング・ダイニング | 家族の気配があり、だらけにくい | テレビや会話で中断されやすい |
| 図書館・学習スペース | 周りも勉強していて、気持ちが切り替わる | 自習席の利用ルールが施設ごとに違う |
| オンラインでつながる自習 | 家にいながら人の目がある | 画面の先に誰がいるかを家族と共有しておく |
自分の部屋で勉強するなら、机の上を「勉強のときだけの配置」にするのが手軽です。教科書とノートとペンだけを置き、ほかのものは箱にしまう。勉強中だけ別の椅子に座る、という小さな区別でも、頭の切り替えの合図になります。
リビングで勉強するなら、家族にも協力をお願いしてください。「この時間だけはテレビを消してほしい」と頼むより、「この1時間はここで勉強するから、話しかけるのは後にしてほしい」と伝えるほうが、お互いに気持ちよく続けられます。

家の外の机は、自習できる席かどうかを先に確かめます
家ではどうしても切り替えられないとき、図書館は心強い選択肢です。ただし、図書館の席は「資料を読むための席」として用意されていることが多く、自分の教材を持ち込んで勉強してよいかどうかは施設によって違います。
たとえば東京都立図書館は、よくある質問のページで、資料を持ち込んでの席のみの利用は遠慮してほしいと案内しています。一方、千葉市中央図書館には、市内に住んでいるか通勤・通学している中学生以上の人が、持ち込み資料で自習できる自習室(48席)があり、指定席制で、時間帯が3つに分かれています。自習室の中では携帯電話・パソコン・電卓は使えないとされています。
このように、同じ「図書館」でもルールはまったく違います。行く前に、自治体の図書館のページで「自習室」「学習室」の有無と、利用できる人・時間・持ち込めるものを確かめてください。公民館や自治体の学習スペースを開放している地域もあります。「通える机」を一つ持っておくだけで、家で集中できない日の逃げ道になります。
時間は「長さ」ではなく「始める時刻」で決めます
「今日は3時間勉強する」と決めると、始める前から気が重くなります。3時間が終わらなかった日は、できなかった記憶だけが残ります。おすすめは、長さではなく始める時刻で決めることです。
- 「午前10時になったら、レポートを1ページ開く」と決める。
- 始めたら、まず10分だけやる。続けられそうなら続ける。無理なら休む。
- 終わったら、やった分をカレンダーに印だけつける。量は書かない。
始める時刻が決まると、その前の行動も決まってきます。10時に始めるなら、9時半には起きて顔を洗っている必要がある。こうして勉強の時刻が、生活のリズムを作る杭になります。生活リズムが崩れている時期は、勉強の内容より、この「杭を1本打つ」ことのほうが大切です。
レポートに取りかかるときは、いきなり解答欄を埋めようとしないのがコツです。最初の10分は、レポートの設問に対応する教科書のページを開いて、見出しと太字だけを読む。それだけで、どこに答えが書いてあるかの見当がつき、次に机に向かったときの入り口が低くなります。分からない設問は印をつけて飛ばし、スクーリングや質問の機会にまとめて聞けば構いません。
レポートの締め切りから逆算するのも有効です。提出日が月末なら、月の最初の週に1本目を出すと決める。締め切り直前にまとめて取り組むより、気持ちの負担が小さくなります。
一人で続けない。人の気配を借りる方法
一人で机に向かい続けるのは、大人でも難しいことです。逆に言えば、人の気配があるだけで集中が続きやすくなります。家の中で、特別な道具なしにできる方法を挙げます。
- 家族に同じ部屋にいてもらう……親が隣で本を読んだり、家計簿をつけたりしているだけで十分です。教える必要はありません。
- 始める時刻を誰かに宣言する……「10時から始める」と家族や友だちに伝えるだけで、始める確率が上がります。
- オンラインでつながって各自の課題をやる……同じ時間に画面をつなぎ、話さずにそれぞれの勉強をする形です。
- 進んだところを報告する相手を持つ……「今日は1ページ進んだ」と送るだけで構いません。
保護者の方にお願いしたいのは、見張る役ではなく、隣にいる役を引き受けてもらうことです。「やったの?」と確認されると、子どもは報告のために勉強するようになり、長続きしません。「10時から一緒にここにいるね」のほうが、ずっと効きます。
よくある誤解:環境を整えれば、毎日できるようになる
最後に、よくある誤解を3つ挙げておきます。
- 環境を整えれば毎日できる……できない日は必ずあります。大切なのは、できなかった翌日に戻ってこられる仕組みがあることです。
- 長時間やらないと意味がない……通信制のレポートは、1日10分でも積み上げれば進みます。ゼロの日を減らすことのほうが大事です。
- スマホを取り上げれば解決する……取り上げられたスマホは、親子の対立の火種になります。本人と話して「勉強の時間だけの置き場所」を一緒に決めるほうが、続きます。
ニジ高は「一人で机に向かわない」ための通信制サポート校です
ここで、NIJIN高等学院(ニジ高)のことを少しだけ書かせてください。ニジ高は、提携する通信制高校と連携して高校卒業を目指す、オンライン中心の通信制サポート校です。全国各地や海外からも生徒が参加していて、離れた場所にいても同じ時間を共有できる形にしています。担任制で、カメラやマイクをオフにしたまま、チャットだけで参加するところから始められます。
運営は株式会社NIJINです。小中学生の場合は、同じグループが運営するNIJINアカデミー(不登校の小中学生のためのオンラインオルタナティブスクール。500名超が在籍)という選択肢もあります。中学卒業後にニジ高へ進む生徒もいます。
家で勉強できないという悩みに対して、ニジ高が大事にしているのは、決まった時間に集まる約束と、進み具合を見てくれる人がいることです。生活リズムに波があっても学べるよう、アーカイブ視聴や中学内容の学び直しにも対応しています。
正直に書いておくと、ニジ高の学院内でのスクーリングはありません。高校卒業に必要なスクーリングは、提携する通信制高校で受ける必要があります。オンラインだけで全部が完結するわけではない点は、先に知っておいてください。

迷ったときの進め方(3ステップ)
- 今の「集中できない」の原因を1つ選ぶ……場所・時間・スマホ・一人であること、のどれがいちばん大きいかを本人が選びます。体調が理由なら、まず休むか相談を優先してください。
- その1つにだけ手を打つ……場所なら机の配置を変える、時間なら始める時刻を決める、スマホなら置き場所を決める、一人が理由なら誰かにいてもらう。1週間だけ試します。
- 1週間後に、続いたかどうかだけ振り返る……続かなかったら、別の1つに替えます。責める必要はありません。合う方法を探しているだけです。
この記事で参照した資料(2026年9月21日確認)
- 東京大学社会科学研究所×ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2025」
- 文部科学省「令和7年度 通信制高等学校実態調査」詳細版(PDF)
- Ward et al. (2017) Brain Drain, Journal of the Association for Consumer Research
- Ruiz Pardo & Minda (2022) Acta Psychologica
- Böttger, Poschik & Zierer (2023) Behavioral Sciences 13(9)
- 東京都立図書館「よくある質問」
- 千葉市中央図書館「利用案内」

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A. 向き不向きを決める前に、場所・時間・人の仕組みを一つずつ試してみてください。全日制で集中できていたのは、学校という仕組みがあったからという面が大きいです。その仕組みを家の中に作り直せば、動き出す人は多くいます。
A. 一方的に預かるより、本人と一緒に「勉強の時間だけの置き場所」を決めるほうが続きやすいです。スマホがそこにあるだけで集中力が大きく落ちるという研究は、追試では再現されていません。手の届かない場所に置く、通知を切る、の2つで十分なことが多いです。
A. 施設によってルールが違います。持ち込み資料での自習を遠慮してほしいとしている図書館もあれば、自習室を設けている図書館もあります。行く前に、自治体の図書館のページで自習室の有無と利用条件を確かめてください。
A. 始める時刻は午前でなくても構いません。今起きられている時刻の1時間後を「始める時刻」にして、そこから少しずつ前にずらしていくほうが続きます。スクーリングの日に合わせて、無理のない範囲で調整してください。
A. 時間の長さより、ゼロの日を減らすことを目標にしてください。レポートの締め切りから逆算して、1日に何ページ進めれば間に合うかを出すと、必要な時間が見えてきます。
A. 見張るより、隣にいる役がおすすめです。「やったの?」と確認するより、「10時から一緒にここにいるね」と伝えるほうが続きます。本人が体調を崩しているときは、勉強の話より先に休めているかを気にかけてください。
集中できない日があっても、戻ってこられれば大丈夫です
家で勉強できないことに悩んでいる時点で、あなたはもう、自分の学び方を真剣に考えています。足りないのは意志ではなく、仕組みのほうです。
場所を一つ決める。始める時刻を一つ決める。スマホの置き場所を一つ決める。誰かに隣にいてもらう。この中の一つだけでも、明日の朝から試せます。うまくいかない日があっても、翌日にまた机に戻ってこられれば、それで十分に前へ進んでいます。
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